文系作家の行き当たりばったり創作法

折り紙の設計理論が登場してはや20年。現在多くの作家がその理論を駆使して、精緻な作品を作り出していますが、それは誰もが使いこなせるツールではないようです。かくいう私も数字にめっぽう弱く、設計理論はサッパリなのです。今では理解しようという努力も放棄しています。

しかし、それなりに”経験”や”ノウハウ”を身に着ければ、設計理論に明るくなくてもコンプレックス作品を創作することはできます(断言)。「創作はしたいけど、難しいことはわかんないよ~」という方のために、自分なりの方法論をまとめてみました。ここでは「ユニコーン」の創作過程を追う形でレポートをします。

1. 対象の研究

まずは対象の研究をして特徴をつかむことが大切。特にカドをいくつ折り出さなければいけないのかをチェック。図鑑などを見るのが一般的ですが、私は最近はGoogleの画像検索をもっぱら利用してます。いやもちろん実際に現物を見るのがベストですが…。

[作例]
「ユニコーン」は空想動物なので、あらためて研究する必要はないと考えます。イメージでいいのです、イメージで。リアルな馬にツノが生えている、それだけ押さえておくことにします。

2. パーツを作る

自分の場合、全体の構造を考えるより先にパーツを作って、それを全体の構造の中に組み入れるという方法をとることが多いです。

要するに特徴的な部分を先にそれぞれ折ってみるわけですが、まぁ普通は頭部ですね。「鶴の基本形」や「かえるの基本形」とかの単純な基本形から折ってみましょう(単純な基本形を使ったほうが、後で全体構造に組み込みやすい)。そのとき注意するのが、胴体との接続部分のために、カドを1つ余らせておくことです。

他に特徴的な部分があれば作っておいてもよいと思いますが、自分の場合は頭部だけの場合がほとんど。パーツが増えれば当然後で組み合わせに苦労しますしね…。

特徴的なパーツのないものは、ここを飛ばしていきなり次の全体構造から入ってもよいと思います(「馬」「ペンギン」「白鳥」などがそうでした)。

[作例]
「ユニコーン」の頭部はこんな感じで。「鶴の基本形」と「あやめの基本形」の混合。やはり目は必要ですねぇ。あまり写実的になりすぎず、適度にディフォルメした感じもなかなかよいかと。たてがみも欲しいところですが、アイデアが浮かばないので、この段階では考えないことに。余ったところで何とかしましょう。。

図1
図2

3. 角の配置を決める

次に、カドの大まかな配置を決めます。もちろん先に作ったパーツをどこに配置するかも考えながらの作業です。

動物の場合は、4本の足と頭と尻尾で計6個のカドが必要です。図3のようなダイアモンド型がオーソドックスなパターンですね。いわゆる「西川虎」です。私の作品では「猫」「ラッコ」のそれです。これは魔法の比率というか、22.5度と非常になじむ配置で、カドの長さのバランスもいいので、ファースト・アプローチとしてこれを用いるのは至極順当です。

図3
図4
図5
図6

頭部の領域がたくさん必要であったら、図4のよう前足の位置を後ろにずらす。これは「馬」「にわとり」。もっと必要ならカドに前足を配置する(図5)。「鹿」「象」「水牛」がそう(でもこの配置は出来るかぎり避けたい。頭部が重くなるうえに、前足が弱く支えきれません)。また鹿などのようにツノに大きな領域が必要な場合は、図6のように背骨を辺に対する垂線にもってくるパターンもあります。

基本的にこの4パターンで自分の場合は足りてしまいます。 後ろ足については前足と同じ長さになるポイントを探すので、自動的に決まることが多いです。下半身の領域が少ない場合は、尻尾を内部から折り出す方法もあります。「鹿」や「兎」などの尻尾の短い動物はすごく楽ですね(余ったところで折れば大丈夫なので)。

もちろん、ここですべての配置がカチッと決まるわけはないので、実際には次のステップと並行して試行錯誤しながら決めていくことになると思います。

[作例]
「ユニコーン」は頭部のボリュームはさほどではなさそうなので、とりあえずオーソドックスな図3のパターンでいってみることにします。もうここは見切り発車でも仕方ありません。

4. 基本形を畳む

角の配置が決まったら、先に作ったパーツとの接続を考えながら、折り線をつけて、基本形に畳みんでいきます。嗚呼、ここはもう完全に”勘”と”感覚”の世界なです。とりあえず22.5度の線をむやみやたらにつけて、平面に折りたためる線をひたすら探すのです。ここでは自分が蓄えた”折りのボキャブラリー”とか”得意パターン”といったものが物を言うのです。

コツとしては、まず頭部から前足にかけての構造を最優先に畳んでゆくことです。後ろ足と尻尾は二の次、この部分は余った部分で折り出すぐらいの心意気です。

なお腹割れにするか背割れにするかは、自分の場合は頭部の構造で自然に決まるので、あまり意識はしてません。頭部の造形優先なので、その辺にこだわりはありません。

いくつかテクニックを。

○図7のように斜めに段折りして首の角度をつけることを構造に入れ込んでみると結構うまくハマることがあります(「犬」「ライオン」がそう)。このようにカドの出る角度まで基本構造に組み込むのは高級テクニックかもしれなません(「猫」の後ろ足なんかもそうです)。

○後ろ足は図8のような形を確保すれば、結構簡単に折り出せます。私もよく使うパターンで(「牛」「兎」など)、背骨に沿って段折りにして、二双舟みたいにカドを折り出します。22.5度にこだわると複雑化して難渋してしまうこともありますので、このように45度で構成してみるとシンプルにまとまることがあります(カドは後で細くすればいいのです)。

図7
図8

ここが一番重要で、かつ一番時間がかかるところ。ここがクリアーできれば、もう7~8割できたようなもんです。

[作例]
まず頭部の構造(図1)を前足の部分まで拡張して、図3にぶち込みます(図9)。頭部の構造が少々変則的なので、「西川虎」にそのまま組み入れることはできませんが、ぐちゃぐちゃといじっているうちに頭部から前足にかけての折りたたみパターンを発見(”悪魔の舌”構造をぶち込んだのがミソ)。胴体は首の角度をつけることでうまく決着しました。下半身は22.5度できれいにたためるパターンを発見できなませんでしたが、背骨の線に沿って帯状の領域を入れ、45度のラインできれいに畳むことができました。

図9
図10

折り畳むとこのようになります。首の角度がすでについています。

図11

5. 細部を折り込む・微調整

基本形になんとか畳めたら、細部を折り込んで対象の形に近づけていきます。足を細く折るとか、そういうことです。

ここで今一度対象(とくに体型)を仔細に観察しましょう。足の長さや出る位置などを微調整します。長さを調整するにしても、いまさら構造自体をいじりたくはないので、ここはなんとか小手先でごまかします。このあたりは腕の見せ所です。

ここでは余った紙をどう処理するかの問題も出てきます。この作品であれば、”悪魔の舌”の内部のカド。「アイベックス」は内部の角を分散させて首の毛並みの表現に用いました。活用するか、分散させて消すか、どちらかですね。内部に隠すというのは”無駄がある感”全開で、感じがよくありません。余った紙が思わぬ効果を生み出すことがよくあるので、楽しんでアレンジしてみましょう。

[作例]
たてがみがないため首筋のあたりがさびしい。ちょうど内部にカドが余っているので、角をひっくり返して、引っ張り出してみました。非常に無理のある力技ですが、造形にアクセントができました。偶然できた尻尾の帯状領域のおかげで尻尾のボリュームが出たのも僥倖。枝分かれさせて毛先を表現しようとも思いましたが、くどいのでやめました。というわけで完成です。

自分の作品のすべてがこの方法をとるわけではありません。他人の作品から応用したり、基本形が突発的にできたりと様々ですが、そういうのは向こうから勝手にアイデアが降ってくるケースです。そういう受身ではなく、能動的に、意識的に創作しようとするときは、このような手順を踏むということです。参考にしていただければ幸いです。