1. 「背割れ」とは、「腹割れ」とは
「背割れ」と「腹割れ」。あまり聞きなれない言葉かもしれません。これは主に動物を創作する際に使われる表現で、「背割れ」とは背中に紙の端が現れるもので(=背中が割れている)、逆に「腹割れ」とは紙の端を内側に隠し、背中に紙の端が出ないもの(=腹が割れている)を指します。
作品の具体例を見せると、図1-1の「犬」は見ての通り、背中がざっくり割れて、紙の裏側の白い色が露出しています。これが「背割れ」。それに対し、図1-2の「狼」は滑らかな背中のラインを持っています。これが「腹割れ」です。
背割れ
腹割れ
この2つの構造の違いは明快です。「さかなの基本形」で説明をしますと、中心線に沿って山折りして、紙の端が外側に出るように山折りするのが「背割れ」(図2-1)、中心線に沿って谷折りして、紙の端が内側に隠れるようにたたむのが「腹割れ」です(図2-2)。
背割れ
腹割れ
2. 「背割れ」「腹割れ」を折り分ける
単純化すると「背割れ」と「腹割れ」の違いは、最後に山折りするか、谷折りするかの違いなのです。しかし、動物を折ったとき、背中に紙の端が出るか出ないかは大きな問題です。 それでは、これから「背割れ」と「腹割れ」がどのような違いがあるのか、1つの基本形から両者を折り分けるという実験をしてみたいと思います。
サンプルとして使うのは「山羊」という作品です。
「山羊」展開図
「背割れ」と「腹割れ」の違いは、最後に山折りするか、谷折りするかの違いだということは先に述べましたが、ではまったく同じ折り筋でたたんで、最後に山折りするか、谷折りするかを変えるだけなのかというと、そこまで単純な話ではありません。
なぜなら図2-2のように腹割れで折り畳むとカドも内側に隠れてしまうので、頭や足の造形が難しくなってしまいます。だから、山谷を入れ替えるなどの調整が必要となってきます。
折り筋は図4のような山谷の折り筋をつけます。白い面を上にして、青い線が山折り、赤い線が谷折りです。
背割れ
腹割れ
実際にたたんだ状態が以下の図(図5、6)となります。
背割れ
腹割れ
シルエットは同じです。特徴的なのは「腹割れ」の裏側には白い面が多く現れているところです(図6-2)。同じ線を使いながら、一部の山谷を入れ替えた結果、裏と表が反対になって現れたのです。
山折りと谷折りを入れ替えるということは、紙の裏表を入れ替えることですから、「背割れ」は白い面を内側に隠れるように折り、「腹割れ」は色の面が内側に隠れるように折ることに結果的になるわけです。ただ、このままだと「腹割れ」は表面が白くなってしまいますので、外側だけ色が出るように、一番外側だけひっくり返す必要があるのです。これが前述した「山谷を入れ替えるなどの調整」です。
さらに折り進めていきます。ただこのままでは首の角度が出ないので、内側の構造を少しずらしたりと少々小細工を加えていきます。
背割れ
腹割れ
そして仕上げです。細かい説明は省略して一気に進みます。
背割れ
腹割れ
これで同じ構造で折り分けた「山羊」の完成です。左側が「背割れ」(図7-1)、右側が「腹割れ」(図7-2)です。シルエットは大きな違いはないように見えます。背中を見ると一目瞭然の違いがあります。
背割れ
腹割れ
頭部の表現もかなり違っています。カドの出方が違うので、同じ造形にはならないのです
背割れ
腹割れ
「背割れ」「腹割れ」の折り分けは技術的には可能であることがわかりました。では、作品を創作するときにはどちらを選択するべきなのでしょうか。次稿では、その両者のメリット、デメリットを整理して、そのデメリットを消す工夫などについて述べてみようと思います。